-「銀時ィ… 愛ってなんだァ?」-



イカレた男の口が問う。爛れた男はせっかくの問いに答えを用意しようという頭も無しに。あるのはなし崩し的チョメチョメへの暴発しそうなイマジネーション。挿し込みたい。でも下半身が無い。
触れた口唇の先に感じたのは微かな震え。お相手の内なる獣が怯えているのだろうか。
じゃあそれごと食べてしまいたいと思う。
あれもこれもすべてひっくるめて捕食してしまいたい。みたい。どうなるだろう。
伏していた口元をこじあけてきつく吸うと、血を孕んだような錆臭い唾液が喉に流れ込んできた。
その匂いがキシロのように口腔を麻痺させる。痺れる、脳も。
甘いの反対は甘いだったろうか。己の言語能力に問い掛ける。
奴の細い腰を掴んで焼け付くような掌。溶解する下半身。
血にも乳にも似た、甘い香味に覆われゆく。自分の舌の上のその感覚を恍惚というのだろう、ぼやけた頭の中枢を走る。
大層な快感だ。腕の中に居るというだけで。あとただ口を少し吸っただけじゃねーか。
細い手首が鬱血の兆候を見せ初めている事に気付く。
だが何も言わない。どのようないぎたない言葉でもってそうされても可笑しくないのに、冷ややかにさえ詰ってもこない。白く更に白くなった指先が末梢神経のバランスを崩してカタコトと空で触れ始める。
寒そうなその色を充血して熱くなった舌で包んで染め直してやりたい。二つの温度を交換してもいい。
お前のだったら垂れた挙句に詰まった鼻水でも、俺はすすり出してやれるし。血痰も銃弾も。死の匂いに喉を詰まらせながら破れ目につけた俺の粘膜の方が奴の体を焼いてしまうのではないかと恐れた。あの日。
血の匂いというのは何処かのリミッターを外す。パーン。と。
俺は極力視線を避けて知らぬ存ぜぬのふり見ないふり、奴は外れたネジのよに首をがくりともたげる。
火と油…陰と陽なんて言う奴もいるっけ。
けどこうして接触は、そんな世間様の評判をぶった切ってお互いを…少なくとも俺を溶かす。高杉の邪気に満ちた目すら潤わせる。汗と液と目からの汁と、なんもかんもない交ぜに…攪拌されるこれらを持つ俺らが相容れるはずもないものの事例にあげられているなんて。外れているのは一体どっちだ。
高杉の戒め無き手が脇を滑る。かと思えばまた上昇してきて肩甲骨の辺りに休み場を見つけて落ち着く。
その場所に一気に集まってゆくのは血じゃなくて安堵、安堵感、安堵。その場所へ引く間もなく押し寄せてくるスピードとは裏腹になんて柔い。おれの背と高杉が添えた掌の、僅かばかりの空間にそれは重く濃密に集合し、ゆっくりと皮膚の内側まで浸透する。そしてそれから毛穴から噴き出してきて全身を包む。
これがあのかたちにならない愛ってもんの一端じゃないのか。
人肌が、そこに接しているという以上に何も無い。何も無いはずなのにそこは過度の温度をもって主張する。その主張は喜びだ。
愛ってーのはこういうもんを齎してくれるんじゃねーのかもしかしたら。
こういう感覚。誰と袖擦り合ったところで、誰と深く秘所をぶつけあったところで、それはただの意図的な摩擦であって。
難しい事はわかんねーけどよ。もっと高尚めいた話なのかもしれないけどよ。今俺はお前の全部という全部でこの身を浸したい。今お前はどうなのよ。
あ。骨まで繋がった。
繋がった骨からどうしようも言葉で表しにくいもんが、伝っていく。なんて都合のいい事でも起きてくれてねーか?
説明するのは面倒だけど、あーそれにしても気持ちがいいな。これ。この○○。もし一人分しか無いのなら。
高杉お前にやる。





そこでぐにゃり歪んだ俺の下も含む体の表面は大方がさらしみたいなきつい包帯に巻かれてて。

なんだ夢オチかよ。