-いっしょに死んでください-



あの人が好きだ。
気付けばわけがわからないくらい好きだ。

伝わっているかどうかと言われれば伝わっている事は間違いない。
けどこれは叶うとか叶わぬとか、そういった類の話じゃない。

充分に俺の気持ちは知っていても、それをどうにかうまいようにうまい場所に納めるという風な、考えはあの人には無いだろう。

彼が大小・物の違いはあれど、とにもかくにも何かおさまりやらぬ物を腸の内にわかせるその時に、その場に居合わせたら俺が吸引を担当する。
膿盆になってあの人の体液中にも蔓延した興奮をカランと出してもらう。
膿み取り係だ、なんてロマンチックー。

馬鹿を言っている場合じゃない。


あの人が、熱の篭った目を隠しながら局長を見ているのを、どんなに近くで見た時でさえ、こんな気持ちにはならなかった。
あの人が、埋まらない出会いからの時間の差の分の親しみも込めて、沖田隊長の下の名を呼ぶのを何度聞いたって、こんな気持ちになった事は無かった。

でも。
次、旦那の匂いをさせて帰ってきたら、殺そうかと思う。
自分の中にこんな能動的な衝動が存在する事にまず驚いたが、何度もそれはその都度に、さつい、の三文字を明確にさせて浮かび上がってくる。
そして消えてゆく。

俺の手で殺せるわけが無い。どんなに隙をついたところで、あの人が雁首差し出してきたところで。俺に殺せるわけが無い。
あの人は居なくちゃ駄目なお人だし。公私混同も甚だしい。それをしないところをきっとあの人に買われたから、俺とあの人はこういう関係になったんだろうに。
あの人が、あの人の公務を円滑にこなすのに邪魔になる生理を処理する為だから、俺を抱くのは公だ。私情じゃない。わかってるのに最初から。
わかってるのに。無謀とわかりつつ、情け無いと知っていつつ、自分を惨めにするだけの汚らしい願望は度ごとにふつふつと増大していく。

こっちだって私情で抱かれたわけじゃない。
そんなもんも切り替え出来ないほどアホじゃない。
…なかったんだ。

山崎、無機物である膿盆に徹し切れませんでした。ごめんなさい。


あの万事屋の旦那の事を普段から疎ましく思っているわけもなく…
好ましい人物だと思いさえする。
けどそこに、自分と同じ肉体関係が存在しているかどうかだけで、こんなにも、一瞬でも、ブレが生じるなんて。
まさか最近まで、思いもしなかった。

混濁した後その矛先がぐるりと回転する事も――

同じ喉をついて、共に果てられたなら。
もうあとは俺にとって邪魔な誰も、存在しない世界で二人。


これこそ、馬鹿を言っている場合じゃない。
何を恨むにしてもしみったれている。