-むしくいみかんのは|虫喰われ蜜柑の葉|- 昨日の夜にはもう自分の物じゃないみたいになっていた足腰は、朝になって隊服に着替える時、中の、たぶん繊維とかそういう物が重なっているところの間をミリミリ裂くように痛みを走らせ訴えだした。 鈍痛・筋肉痛・関節痛。 股関節の存在なんか無視してあそこまでするもんだから、脚の付け根が合ってないような感じが取れない。 よくもまああんなに何時間も出来るもんだ。俺よりおっさん寄りのくせに。なんだあれ。マシンなのか?そうなのか? ああ、気が重い。今日は副長も俺も当番だ。 結局昨日、自分は途中で気絶してしまって、副長の最後の顔を覚えていない。 あの人、明るいところが好きなのか、やっぱり電気をつけ出してそのまんまだったけど、その前もどんな顔をしていたかなんてはっきりとは覚えていない。 断片的に残っているのはきちがい染みて笑ってる顔と、瞳孔をぱっくり開いた…やっぱきちがいみたいな顔。なんだそれ。 しかもその両方の記憶中、自分は何度も謝罪の言葉を繰り返してたような気がする。その時の自分の顔は…想像もしたくない。 きゅっきゅと鳴る廊下の途中もやはり続く下半身の存在主張。いくら体だけではなく心の方までぐったりしているとはいえ、いい加減この地味な痛みの信号には腹が立つ。 なんなんだよ、お前等もう!どっかいきたいんならいけ!独立したいんならしろ! 「はぁ…」 アホか俺は…。 あーもうサボっちゃおうかなー。ミーティング。 ケツ痛いんでなんて言ったら殺されるかなー。 篠原もう帰ってくるよなー。 空もこんなに青いもんなー。 引継ぎとかなんか無理っぽいから、もう一連勤してくんないかな。 いやちゃんと働くからミーティングだけ俺に変装して出てくれないかな。 危険なんだよなー。場合によっちゃ長引くから腰だって痛ぇんだよー。 屯所の中央部までのその道のりは千里のように長く遠く感じた。 「何やってんでぇ山崎。ふぬけた面ァ天井に向けやがって」 その恫喝のような響音にびくっと反応する間も無く背後から声と一緒に足の裏が飛んできた。 ひぐ…っちょ…そこ腰!そのまま廊下に飛び込む。いってぇ〜…。 (無意識に腰を摩ってる。ちょ…何これ俺こそこれオッサンくさくない?) 板伏しになった半身を起こして通り過ぎようとする相手に声を投げる。 「何するんすか!沖田隊長」 一瞬足を止めて俺を見下ろしたまま口を開く。 「板付きが馴染んでるぜィ。ちぃとばかり薹が立っちまってるみてぇだがなァ。」 「え…?」 終始冷ややかな目だった。 床に伏してるのがお似合いって意味だろうか…。 とくに意味も無く、背中を目で追ってしまう。 足音が止まったと思ったら隊長の体が横になおり、またさっきと同じ冷ややかな目で一瞥をくれる。 「板の上のマグロ」 ボソッと呟いてすぐに戸を開く音がする。沖田隊長の身が消えてまたすぐに戸を閉める音がする。 は?マ、マグロ?… あ。うわっいつの間にか目の前だ。やだなー…てか閉めなくてもいいのに。 仕方が無い。出ないとまた怒られる。 それにしても俺は沖田隊長になんかしたんだろうか? それにしても朝の光は目にしみるなー。 土方さん、遅刻でもしててくれないかな。 そうすれば土方さんが入ってきた時に俺が戸の方見なきゃ済むわけで。 そーっと戸を開け、上座の方に一瞬目を走らせる。 来ていないのは局長の方だ。殺人マシンの方はもうとうに定位置に鎮座している。 戸の開く音の薄さで勘付かれたのか、こっちを見ているらしかったけど、顔を逸らしてささっと他の隊士達の群に潜り込む。 自分よりもかなり大きい、つまり座高も高い隊士の後ろに腰を落とす。いっ…あーやっぱいてぇ。 土方さんは、まだ俺の方見てるんだろうか?背中を丸めて前の隊士の幅に隠れきってしまおう。 うわ〜なんか居辛ぁー。なんで俺がこんな気持ちになんなきゃいけないの? 溜め息が出そうになった。すぐ後に元気な声で近藤さんが入ってきた。 会は始まったけど、正直ほとんど耳には入らなかった。 最近はそんな大きな事件も無い。そんな物があったら昨日揃って非番なんてとれるはずが無い。 定例のこの朝のミーティングも緩やかな物だ。 早く終わんねーかな。 あ、帰ってくんのは篠原じゃなくて吉村の方だったみたいだ。 あの様子を見ると、引き継ぐほどの事柄も無いのだろう。 平和だな。平和だし、さぼりたい。 隊士達がざわざわと足を崩し、腰を上げ始める。立ったはいいがそのまま腕を伸ばして欠伸をしだす者もいる。 ミーティングは終わったみたいで、自分の名を指される事もなく、隊全体にもやはりたいした話は無かったようで、彼らは今日も市中見回りと称して練り歩く。 俺は形式だけでもさっさと吉村の報告を聞いてこの場を立ち去ろう。 吉村の居た場所に体を起こそうとすると副長の声がした。 「山崎。お前はまだ出るな。」 え。見ると吉村は副長の傍らで、報告書と見られる書類に目が通されるのを黙って控えている。 「よし、ご苦労だったな。自室に帰って寝てていいぞ。」 「山崎ィ。お前はあと一時ほどしたら俺の部屋に来い。お前に渡すもん纏めておく。」 吉村は副長達に一礼して、そそくさと他の仲の良い隊士達の固まってる方へ足を向ける。 あーやだな、こっち見てる。でも仕事。 「…へいっ。」 普通に声を上げただけでも疲れた。 二時間かぁ…半端だな。 やる事も無いし、監察部屋に帰って吉村の睡眠の邪魔をするのもなぁ…。 あーそうだ。人の少ない奥の縁側にでも行って座っていよう。 のそのそと立ち上がってその場所へ向かう。 ついた場所はやはり人気も無く静かで、その最奥の角になったとこの手前に腰を下ろし、ここに来てもやっぱりやる事が無い事に気付いてぼーとする。 角の向こうは道場に続いている。稽古の無い時間はここは穴場なのだ。 さっき他の隊士がやってたように真似て、腕を上げ体を伸ばしてみる。 ふあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぁ…だめだ。腰いて。そのまま影の多い方に向かって倒れた。 体を横にしてもやっぱやる事は無くて、頭に浮かんでくる事は一緒。 昨日もぐじぐじ考えていた。 自室に篭ってあちこちに飛来する考えを纏めあぐねてたら土方さんが来て。…土方!ボケ! マンネリってなんだろう。 土方さんの暴言なんて今に始まったわけでも無いのに、昨日のこの一言は朝になって目覚めてみてもやっぱり頭から離れていない。 土方さんと俺の関係は、短いわけでは無いが、そう回数が多いわけでもないと思う。 あった日だけ選り集めると短い方になるんじゃないかな。 同じ部屋じゃなくても床の中でじゃなくても一緒に過ごしてきた時間は結構長いと思うけど。 太く短く、細く長く、広く浅く、狭く深く。…いろんな言葉がある。俺達はどれ? 俺は、別に今のままでいいから、公然とか一番とか、そういうの望んでるわけじゃないから、理想は細く長く。 でも土方さんはどうなんだろう? ここへ来る時は気付かなかったけど、日向になってる方は日差しが暖かくて気持ちいい。 腰に降る日差しはぽかぽかその辺一帯をあっためて、重みが抜けていくような気がする。 誰かに聞くわけにもなぁ。これが彼女と、って話だったら人に相談出来るかもしれないけど。 俺が知りたいのはどっちかっていうと、男がどういう観点や場面で女にマンネリを感じるか、の方だ。 あと、マンネリ解消法と。 前者の方は誤魔化しながら聞けそうな気がするが、後者がなぁ…それを聞いている時の自分の態度に、いまいち自信が持てない。 だいたい聞くって誰に聞く? 局長? 無理。他の事だったら話は別だが、男女の機微に関わる話は無理。ありえない。 だいいち…一応俺の恋敵だぞ。土方さんがアレだから本人わかってないみたいだけど。 他の隊士? 似たようなむさ苦しい連中ばかりだしな。 彼女出来たって誤解されたら弄られるだろうし、副長まで巻き込んでからかってきそうだ。 沖田隊長? あらゆる意味でそれは無茶な気がする。 だいたいさっきの態度からして今日は機嫌が悪そうだったし、取り付く島もなさそうだ。 それに多分…。彼の嗅覚は侮れない。 内部の者っていうのがいけないよな。 職場にこんなつまんない私事を持ち込むのは気も引ける。 じゃあ外部。 万事屋の旦那? あーなんで真っ先にこの人が浮かぶんだ。 そりゃーなんだかんだでそういう事には少々の覚えはありそうだけど…けど、あの人は匂う。 なんか変な匂いがする。副長と…。証拠なんか無いけど。これはきっと多分俺が土方さんを好きだから。 そう…だからやっぱり、沖田隊長には一微たりとも漏らせられない。 新八くん…。 …俺って、外じゃあ知り合いと呼べる人間も少ないんだなぁ…。 あーあ。このまま時間なんか経たなければいいのに。 「山崎ィ。何やってんでィ?こんなことろで。板付きが癖になったんかィ?」 背後から突然に、沖田隊長の声が響く。振り返るとやっぱり、こっちに足を向けて進んできてるようで。道場に居たのだろうか?あっちにはなんの音も気配もしなかったのに。 「暇なら土方さんの部屋へでも言って小草履取りでもしてろィ、てめーなんざ」 今はしっかりと気配を持ちながら、この角を折れようと歩いてきている。またしても冷ややかな目は、沖田隊長が一つ歩を進めるごとに俺を篦深く突き刺す。毒を含んだ声と共に。 「は?なんなんですか、さっきから一体。板とかマグロとか」 「それになんで俺が土方さんの草履取らなきゃいけないんすか?」 珍しく、俺は沖田隊長に噛み付いている。 それでもやっぱり沖田隊長は何の色も変えずに、足はすでに俺の肩の後ろまできていて、逆行の影の中から冷たい光を落として言葉を打ち落とす。 「なんでィねすりも通じねぇのかィ。しょうもねー野郎だな。」 「昼間っから行灯下げてる暇があんなら辞書でも引いてみなァ」 昼間っから行灯…これはさすがにわかった。むっとする。別にサボってるわけじゃない。サボりたいとは思っているけど。 そして、日に透ける髪を少し揺らしながら片面が照った黒い両足を規則正しく向こうに差し出して、遠くなっていく。今度は角を曲がる時でさえ、こちらに目も呉れない。 半端に起き上がった半身をゆっくり下げる。こつん。でこが廊下の板にぶつかった。この部分は日陰なので、冷たさが気持ちいい。 浮いてる部分を一度全部廊下に付けてから起き上がった。 あと、40分しか無い。 監察部の部屋に帰ったら、吉村は居なかった。疲れるほどの任務じゃなかったって事か。 書棚から分厚い国語辞典を引き抜く。 “い”だけで何語あるんだこれ。 いいい、いたいたいた…いたつ…あった。 いた-つき【板付き】 1.板の付いたもの。また、板に付いたもの。 … … 4.男色をする少年俳優の中で… ……ちょっ…何これ…。 あとたしか…こ、こここ。こぞうり…とりだっけもちだっけ…。あった。 こ-ぞうりとり【小草履取り】 江戸時代、男色の流行期に、武士が草履取りの名目で召し抱えた少年。 これは…。 板付きの方も意味は4で決定か?(そういえば、薹が立ってるとかなんとか…確かに俺は少年じゃないわな。) それとも…。うわぁ…昨日の土方さんの部屋での自分の格好が脳全体に広がってきた。 あの人…知ってる?つか見てた? そんなはずは無い。と思う。仮にあの鋭敏な嗅覚で、俺と土方さんの事は嗅ぎつけていたとしても、戸も閉まっていたし密室だったし、あの格好があのまま見えたわけがない。あの板に張り付いたみたいな格好が。 考えすぎだ、偶然だ。あの人はこういう複合技をしれっと使ってきそうだけど、やっぱりそんなわけはない。 そうそれに…こういう言葉で俺をからかってるだけかもしれない。たまたま俺が言葉にあてはまる状況を持ってたから、こうやって過敏に心拍数を上げているだけかもしれない。とにかく。もう、辞書を持ってる手がだるい。辞書が重い。 マグロがどういう隠語かはさすがに知っている。 板の上マグロ、板の上のマグロ、板の上でマグロ…。 あーあーあーだめだ!あと25分…。あと25分の間に考えるのを止めなきゃ。 「おう、まだ上がってねぇ。そのへん座って待ってろ。」 襖戸を開けるとすぐ、土方さんはテーブルから顔を上げて、自分の右傍にくいっと目と頭を動かした。 ああ…土方さんが座ってる場所…昨日俺が出してしまった場所だ…。ちゃんと掃除…してなかったような気がする。(もしかしてあの時、それで怒られたのかな?) 出そうになった溜め息を口の中で分解する。戸を閉めてそこにそのまま腰を下ろした。 はぁ…なんだか気まずいなぁ。 土方さんまだ怒ってるかなぁ。 沖田隊長の事…言えるわけ無いな。 時間経ってるのかな今…。時計。ここからだと、縁側の障子戸の上のしか見えない。 障子から射す光が眩しいこの時間帯は、その影響で針もうっすらとしか見えない。 それにその途中に土方さんの体があるもんな…。 畳の数でも数えようかなー俺…。 1、2…17あたりで、今見てるとこが17だったのか16だったのか自信が無くなる。 気を取り直して次の段から始めたら、もっと早くにわけがわからなくなった。 「そうだ、これお前も目通しとけ。」 土方さんの声がしたので、顔を上げると、片手を後ろにつきふんぞり返って、何やら白い紙の束を掲げている。 俺は重い腰と気分を引き摺りつつもその紙のところまで数歩足を差し出し、土方さんの前で腰を下ろして受け取ってみたらそれは吉村の報告書だった。 癖の少ない読みやすい字。左上を紐で結わえられているけど…10枚ぐらいだろうか。少し目を滑らせただけで、これが大変わかりやすく大変よく出来た報告書だって事がわかる。 「はい。」 もう一度最上段に目を戻し、ほぼ無意識で自分が座ってた場所に戻ろうと体を捻りながら起こしたら、土方さんの低い声が飛んできた。 「どこ持ってくんだァ?」 「え?あの読もうかと…」 「ここで読みゃあいいだろ。」 自分の右斜め僅か後方についた掌をとんとんと二回浮かせて叩く。 「はぁ…。」 声に角がある。逆らわない方がいい。 吉村の報告書に読み入った。この一件は、全て彼一人でこなしてしまったらしい。本人の口から引き継ぎが無くても支障の無いほど、完璧な報告書だ。一枚、一枚と読み終える。 全部読み終えて土方さんの方を見たら、土方さんは煙草の煙を揺らしながら、筆を走らせていた。 両腕の動きに合わせて移動する衣服の皺。ベストの下で肩甲骨が動いているのが、たまに見て取れる。 ライターの音。紙が擦れる音。ペンの走る音。土方さんに吸い込まれて巻紙が火を受け入れる音。何枚か飛ばしながら紙をめくる音。時々左右に首の筋を伸ばす。 俺が土方さんの後姿を見始めて、もう何本目かの煙草が消される。 「副長…あのー…俺の仕事って」 いつ上がるんですか?まで聞こうとして、薄い紙の束を渡される。 目を通すと、途中から白紙。 「どうやら今夜篠原が帰ってこねーとその先は作りようがねーらしい。」 「はぁ。」 「それまで待機だな。私服に着替えるわけにゃいかねーが、まぁ俺もお前も非番みたいなもんだ。」 そう言って土方さんは俺の膝目掛けて体を倒した。 「ちょっと足崩せ。」 「はい」 言われるままに尻の下に敷いていた踵を脇に出したら、少し低くなった腿の高さが丁度良かったらしく、少し頭を揺らして位置を決めて、それから動かなくなった。 手に持っていた書類をずらして下を覗いたら、土方さんは目を閉じていた。 寝息こそ立てていないが、疲れも溜まっているだろう。 俺も少しだけ体を後ろに傾けて、すぐ近くにあった箪笥の角に肩と頭を凭せ掛けた。 そしたら土方さんの目が急にばちっと開いて、俺の手の書類を掴んで、テーブルの方へすいと投げた。 寸でのところで紙束はカーブを描き、テーブルの縁を掠めて畳の上に軽そうな音を立てて落ちた。 テーブルの上を見ると、今自分が持っていた厚みの何倍もの紙の重なりが二つあった。 デスクワークもかなりこなしてるよな、この人。 向いてないって言いながらも、副長がこの人じゃなかったら、真選組は万端の態勢で機能出来ないだろう。 普通に考えたら、近藤さんも土方さんも、すごいお人だ。 どっちの山が、済んだ方なんだろう。 とん、と腹に何かが当たったので、ふと下に目を移すと、土方さんは薄目でこっちを見てた。 縁側から射し込む、障子で幾分かは和らいだ光が眩しいのだろうか。そっちの腕を額に乗せたところらしい。 当たったのは土方さんの指先だったようだ。 「あの、副長、すいません自分昨日…そこ拭いて帰ってないですよね?」 「あ?そんな事気にしてたのか?別に怒ってねーし忘れてたわ、そんなもん。」 え、じゃあなんで、昨日のあのごめんなさい強要の連戟連打…。 「眩しい。」 そりゃあそうだろう。もうしばらくしたら太陽が南中する頃だ。南向きの窓から光は惜しげもなく降ってくる。 額に両手を乗せて目隠ししてやろうかと思ったら、腕をあげるより先に土方さんの体がごろんとうつ伏せに回転し、両脚の間の谷んとこに顔が埋まった。整った綺麗な鼻が、多分溝を少し割ってぴったり収まっている。 俺は上げかけて手持ち無沙汰になった両手を土方さんの肩の下あたりに乗せて、あまり力を掛けずにさする。 土方さんが大きくついた息が、隊服の厚いずぼんの布を揺らし、その中の俺の皮膚を撫でる。そこだけなんか…ぞわぞわする。 「お前、角痛くねーのか?」 「へ?」 「頭。あと肩。」 ああ、そういえば。 「大丈夫です。」 土方さんの腕が背中に回ってくる。で、ひっぱって、俺の体を箪笥から離して少し猫背にしてから、腰に落ちた。 腰の手が交差したかと思うと、力が入ってきて、土方さんの体がもぞもぞ匍匐してくる。頭も、溝に埋まってる鼻や額も、一緒にちょっとずつ前進してくる。 「っ…」 あ、やべ…反応してきた。 「副長!あのっ…(俺ってマグロですか?)」 後半は声には出てなかった。 なんだ?って目をして土方さんが頭を横に回して俺を見上げる。そうしてついでに時計を見上げる。 自分でもなんで突然そんな事言い出そうとしたのかわからない。 「もう昼か。飯でも食いに出るか。」 俺の股間から頭をさっとどけて、立ち上がって隊服の上着を羽織る。 カチッと帯刀してから、その指で、座ったままの俺のつむじ周辺をわさわさくすぐった。 「お前もさっさとしろ」 「へいっ」 そういえば、腹が減ってる。 朝飯は当然食べる気も起きず抜いたので、当然といえば当然か。 ああ、そういえば昨日の晩飯も食ってないや。 沖田は悪態つきつつも助言してるんだけど、どうもただの悪者になってしまったような気が…。 |