-ビューティフル・ワールド- セックスで忘れさせ…。だとか何だとか、これに似た台詞を目に耳にする機会があるたび違和感を持つ。ありゃ欺瞞だ。誘惑を正当化するための建前だ。体良く…見えもしない。ただのこじつけ。 その程度で忘れてしまえる事なんて、最初からたいした問題でもねぇんだろ。 実際のところ快楽なんてもんが、安い気休め程度にもなるわけがない。あれのすぐ裏側の顔は暗いうつろだ。どす黒い泥になって逆流。体中を汚しはじめる。弱いところに食い込んで、分解しながら侵食。やがて様々な器官を腐らせる。 意識のある限り、死に至る病につける薬は無い。 性感が高まれば高まるほどその下で自己嫌悪は深まるはず。罪悪感や塊根が本物ならば。 っつーのに我から進んで溺惑のお膳立て。目の前にある事からまず逃げの算段。ヘドが出る。 俺にはそんな物でその場を凌いでしまう気になど、到底なれない。狂った方がマシだ。 こいつは多分、そういう紛らわし方をしようとするタイプの人間。少なくともそうだった。つっても誘惑なんて可愛い真似をされた覚えは無い。どう暴言を吐こうが殴ろうが、強引に人の体を時間の早送りに使いやがった事は、一度や二度ではない。それで本当にスッキリするわけでもないくせに、また本当にそうなる事を目的にしていたわけでもないくせに、どうかしている。 今どういったつもりで人の体を揺さぶりまわしてるのかは知らない。 が、こいつの心中には今も変わらず説明のつかない閉所が存在する。それを汗かきながら持てる方法で人の体のあちこちをなぞって腰振って隠して。俺に気付かれてないと思っている。 その中身に興味は無い。今更変わっちまったこいつの深部を探るなんざ、それこそ馬鹿らしい。的の外れた酔狂。 昨晩からの雨に紛れて、飲みに街に下りた。それを跨いだ朝だった。 かぶき町に住んでいるらしいという事は知っていた。まさか出くわすとは微塵にも考えず、ただ何とはなしに少し歩こうかという気で武市らを置いて、何個かの角を曲がったところだった。 やってる最中は気持ちいい。結局、気持ちはいい。 それ以外もそれ以内も、この行為から得ようと思った事なんて無い。粘膜の擦り合いにそれ以上の意味があるなどと到底思えもしない。 口はほぼきかず、たまにぽつりぽつりと交わす業務連絡・確認作業みたいな上辺のやり取りで事が進んでいく。 ペラペラ喋るような話も必要もあるわけないし、そりゃ普通だろう。男女の色事でもあるまいし。 世間話をする相手もあるだろうが、「ここどう?」「いい」「こうして」「ああ」、至ってこれも普通だろう。 そう。している事は普通だ。面倒な言葉遊びを仕掛けてこないのは、俺にとっては煩わしくなくていい。 ただ俺達がこうする事で、実際やっている事はといえば。 流れ出しそうな泥濁を体表の穴を埋め埋められる事でもってお互い蓋をする。 そんなのは、わざわざ重ならなきゃ、しなくてもいい事だ。必要で無いだけじゃない。有るべきではない交合。 どん底だ。こんな貪りどん底だ。 それでも。こんな真似をするこいつの事を汚ねぇな死んでしまえと罵りながらも。昔からその一時だけでも攻撃の矛先を自分が被る事で紛らわそうとするこいつの不器用さを。不思議と憎めた事は無い。さらに不可解な事に今では、弱くなってしまった性感帯と呼ばれる各箇所への刺激を続けるこいつをどっかで慕わしいとさえ感じてしまっている。 それを受け入れようと思った事こそ一度も無い。けど。体を繋げる度に、自覚せざるを得ないほど、不透明さを失っていっているのはわかった。 雨に空は霞んでいるが、白に近い灰色を縫う斜線のおかげで頭の霞みはだいぶと取れた。 もう春が来ているとは言え、地を打ち跳ね返る薄い飛沫は足から体を冷やす。 なので雨ざらしの壁にもたれ、ほとんど閉じた目でむにゃむにゃと寝言を繰り出している男は目を引いた。 この若さじゃ簡単に凍死って事は無さそうだ。だが震え始めるまでにはそう時間を要さないだろう。 今は男の半径上をぷんぷんと漂う酒気のお陰で体は暖に満たされているのだろうが、それはあくまで錯覚。実際のところこの雨は、体表よりもその奥の、切要な温度を着々と削っている。このままここに居ればよくて風邪だろう。 それがよく知る顔だという事はすぐに気付いていた。 向こうが気付いたのはそれから数歩。 ゆるゆると目を開け、瞳孔がこちらの高さまで来たと思った瞬間。 「てめぇ、たかすぎ…」 と、寝起きにしては流暢な低音を発し、傘の下に飛び移ってきた。その動きの末端はもたついていたが、壁から俺の肩と傘を持つ手の隙間に落下してきた奴の胸部は、綺麗な放物線を描いていたように思う。 起こすつもりは無かったのだが、起きてしまったようだ仕方が無い。 このあいだの春雨の件で殴りかかりでもしてくるか。と思ったが、支えを俺の肩に変えただけで、だらりと落ちた両の拳を握る様子も無く、右耳の隣で突っ伏した首の吐く息は生ぬるく酒臭い。 応戦も刀を抜く必要も何処にも無さそうだ。 安酒で悪酔いしやがって。 「…お前、ちょっとこっち来い」 何処へだよ。 お前の進行方向にあるのはすぐ俺の胴体だろうが。 そう言ったままグラグラ体を揺するだけで起き上がりはしない。 傘を持つ手が左だったら、とうにバランスを崩して雨の冷たい地面に落ちていただろう。 「てめぇ家どっちだ?」 聞いてやるとよろよろと右手を上げ、そのまま右方向を指す。一度矢印を形成した指は、すぐに崩れて俺の左肩を跨いで背後に落ちる。 じゃあなんでてめぇはその逆に体向けて壁に立て掛かってたんだ。アテになるのか。 まあいい。 着かなかったら着かなかったで、そこにこいつを放ってくればいい。 右に、体を向けて足を踏み出す。 そうしたら全体重を預けていた支点が移動したことによりバランスを失って、銀時の体が回転を交えながら大袈裟に右に落ちる。右腕に滑り込んできた頭部の追突で傘が頭上から外れる。だらしなく腰から落ちている着流しの裾や袖が、丁度近くにあった水溜りにびちゃと音を立てて浸かる。 仕方がねぇな。 傘を畳み、ほぼ仰向いた上体をその腕で起き上がらせ、脇に肩を差し込んで持ち上げる。持ち上げた脇から伸びる腕を肩から胸に回させて手首を掴んで固定する。 細雨にでも、水に打たれながら動いたら、少しは酔いも醒めるだろう。 歩き出した足は覚束ず、俺が歩を合わせるのに慣れてやるまで、何度か銀時の体は体重のままにぐらついた。 だがそこから先、意外にも交差にくるたびに腕を起こして、進むべき方向を指し示す。帰巣本能か?動物だな。 着ている主の足が絡まり無駄に膨らんだ動きをするので、水を含んだ着流しの裾が、たまに脛を打って付着させていた泥を俺の皮膚に残していく。 引っ張られる腕の勝手違いが気になるのか、何回目かの曲がり角を過ぎたあたりで、手首を掴んでやっていた俺の腕を解き、背後に下ろして羽織の腰辺りを掴む。やけに曲がらされる。やはり酔っ払いの帰巣本能などアテにならない。 幾分か足の無駄な動きも減ったと思った頃に、雨に濡れて汚ねえ木の色をした、木造と見られる二階建ての家屋に辿り付く。 そこがゴールだって事は、高々と掲げられた趣味の悪い屋号ですぐに気付けた。 項垂れながらも階段は一人でも登れるようだ。安普請の錆が角に回った鉄板をかつんかつんと素面に近いリズムでブーツが鳴らす。腰に回してきている手は、先ほどまでのように不均衡を中和する為では無く、背を押すように前方に力を流している。 着崩した着流しの衿下から手を突っ込んで、下に穿いている物の尻ポケットと思しき場所から、鎖に繋いだ鍵を取り出し錠を捻る。ガタガタガタと建てつけの悪い音を立てながら戸が揺れて開く。 結果的に送ってやる形になり、どういうわけか玄関を開けるところまでしっかり見届けを終えてしまったので、内部でごそごそとブーツを脱いでいると思われる音を聞きながら踵を返す。 背後から二の腕を掴まれ玄関の前を踏み出しかけていた後足が止まる。 「上がっていけよ。茶ぐらい出す。」 もう随分意識もはっきりしているようだ。 討ってきそうな気配は読み取れない。だとしたら俺を招き入れるなんて記憶力の方に問題でもあるのか。がこちらも少し冷えた。熱い茶の一杯ぐらいは体に入れておこう。 茶は部屋に入るや否や雪崩れ込んでセックスになっていた。 雨に濡れた皮膚は滑りが悪く、油が切れて軋むドアのような音がしそうだった。 銀時の腰が早くなる。 腹の下に走る摩擦も速度を増す。 下から見上げている俺らのちょうどその辺りに落として伏せられた視線を、覆う眉がひくひくと寄せられて、巡らせていた雑感もやはりどうでもよくなってくる。 呻吟のような短い音が耳の遠くで走って。それは、なんとなく聞こえた。 イってしまって息が、上がってる僅かな隙間だけは確かに、体内に酸素を取り入れる事でいっぱいになって、確かに。他の事を頭の中に置いておく余裕は無い。 こんな情事の一場面ですら証明する。人間は生の存続に貪欲な生き物なのだと。本能は命を繋ぐ事を最優先事項とするらしい。 少し目を閉じよう。 「銀時ィ。俺は止まるつもりは無ぇ。」 声を張るのもおっくうだったので、吐いた音は僅かばかり時間を置いたにも係らず小さくて、事後のだらしなさの抜け切らない物になっていたかもしれない。だが、他に音を立てる者もいない部屋に二人。耳には一音も落とさず届いただろう。 雨水が屋根を打ち流す音は鮮明。いつの間にか一粒が含む水の量は増したらしい。同時に室内の微かな雑音も浮かび上がらせるのか、何故か耳につく。不自然を越さない程度の間の後に銀時が言った。 「好きにすりゃいいじゃん。お前がしょーもない事したら俺ァ斬るだけふあ…」 あくびが交じってふやける語尾。 この前の勢いは何処いったんだ?本当に記憶力に問題でも抱えているのか。 雨が止んだらここを出て、今度こそ本当にお前と道を交える事はもう無い。 傘は、邪魔くせぇ。 …夜中に降り出したってわけでも無いのに、雨に晒されてたって事は、どっかに置き忘れてきやがったんだろう。お前にくれてやる。 歓楽、欲物、その特有の吐瀉物みたいな匂いが、街中くまなく染み渡り、この物の少ない部屋をも、満たしている。ような気がする。 皮膚の下からの汗の残留感と、雨雲の吐き出した湿り気で、まだ体は重い。 いつの間にか、目を閉じる前からか、気付けば首の後ろから肩に回っていた腕が、輪郭が水分で滲み出すのを抑制する。 さらに不意に覆いかぶさってきた銀時の胸が俺の体と外気の境に入り込み、密着によって境界を確かな線にした。 まず口唇を軽くついばんで、何度かに一度舌を割り込ませてくる。 まだやるのかよ。そう半ば呆れながらも、入ってこられると俺の舌も条件反射でつい動き、最初避けていたのがいつの間にか、侵入してきた舌を迎えるような動きに変わっていた。 長めの絡め合いが終わった後銀時の口唇は、また数度粘膜を軽くひっぱっては離し、絶え間なく地面を叩く雨よりも柔らかな早さで肌に降り、きまりの悪いこそばゆさを残しながら、頬や耳の手前を経て首筋へと流れ、また耳の方へ登ってくる。 耳の外郭を舌先でなぞったしかるのち、たぶを口に含まれ舌で転がされたら不覚にも息が漏れちまってそのまま、顎を天井に向け仰け反ってしまった。普段は聞こえないような、鼻や口唇を出入りする空気の音が耳のすぐ近く、もう内側と言っていいような場所からごうごうと奥に流れ込んでくる。その音が耳ん中に篭るのに、首や頭その辺り一体が果ては下半身まで、感電したみたいにびくびくと痺れて、時折口から吹き出される息に抗おうとする前にふつふつと短い声が漏れる。 ほたえ合っている間に頭上に移動した銀時の手が、額から流れて落ちた俺の髪を梳く。そこに加わる力は頭皮を緩く引く程度でしかないのに、それにすら脊髄を引っ張られたようにゾクリとして背が浮く。 軟骨を甘噛みされてうっと声が出た。 それを聞いて勢いづいたのか毛を梳いていた指は一瞬で硬くなり、そのままひっつかんで枕と後頭部の合間に滑り込み、俺の首はさっき仰け反ったのよりいっそう空にあらわに固定される。 耳を責めていた口唇は、突き出した喉笛を中心に首一帯を貪るように吸い付いて、髪を引っ張っているのと反対側の腕は、外堀を攻めるのを飛ばし、下腹の下でもう早七割弱膨らんでしまった性器を睾丸ごと掴んで揉みしだく。 不本意にもその荒い掌中で更に膨張を続けそうな己の醜状を予見し、反発を込めて胸板に乗った肩を押すが、たいして動かない上に自分の髪も引っ張られて痛ぇと眉根をしかめてる間に股を割られ、開いて太腿を押し上げられたアホみたいな格好になってしまったので、羞恥心そのものが馬鹿馬鹿しくなり抵抗をやめた。 それを察知したのか銀時は、頭から腕を抜きその指で、右の乳首を弄る。心臓側は鎖骨を横滑りに嘗め尽くしてから降りてきた舌でつつかれ転がされた。 床につく腕を替え、太腿を割り裂く足を更に開き、俺のと同じ方向を向いたそれをこれに乗せて重ねて指とそれで挟んで擦る。いやが上にも銀時のそれがもう、門を潜るのに十分な硬度と弾力を持っているという事を把捉する。 悦と素を行ったり来たりしている内にそこを掴み扱いていた指は、俺の投げ出していた手首に伸びてきて、ぐいと引っ張り、重なったそれ二つの上に添えられた。手の甲に銀時の手が重なり、二本のペニスをこすれと示教するように上下する。 掌の中で俺のと銀時の、それぞれがお互いの意志をもってどくどくと脈を打ちびくっと大きく収縮する毎に芯が硬くなっていくのがわかった。 相手を愛撫するのと同時に自慰のような行為。はは。手っ取り早ぇな。 うだる額に空いた腕を乗せ、熱を遠く、出来るだけ遠くにやってしまえないかと愚計を練る。 右と左の間を不規則に食み散らす湿った口唇がじんじんと差し火だけを体ん中に送り込んでくる。 「う、わ…お前のあつ…」 俺の指と俺のとで挟まれる格好になってる銀時のは、擦り合わせる毎に息をする。 熱いのはお前んだよ。いや、手の中の俺のもだ。 出し入れと似た有機感覚で、そこをもっと高みに持っていきたいって欲求がそうさせるのか。手は自然に上下はするが、胸から上を攻める銀時の手や舌に妨げられて、しょっちゅう止まって接触の悪い機械みたいだ。 そうこうしてるうちに銀時のが離れて、それが不意だったので余った掌の内を泳がせていると、それを払って銀時の手が一本になった俺のを握り、口唇は乳首から腹へ流れ、ゆっくり臍の外周をなぞる。声が出る。 臍を離れた舌はそのまま斜めに下降し、腰骨を通過してから股の中心を飲み込んだ。 舌で撫でられて、口唇で擦られる。また声が出る。情けない事にさっきから、自分で自分の声を殺す隙やタイミングを見つけられない。 開放された方の腕も目の上に重ねた。 そこの溝の奥の入り口付近触れるか触れないかで遊んでいた指を唾液ですする音がしたかと思ったら、指の先を入り口を僅かに進んだところあたりまで滑り込ませてくる。 小さな異物感だけじゃない何かが一緒に入ってきた。 今日もう一度開かれたそこは、すでにその先が何なのかを知っているからか、さっきのを憶えているからなのか、初回よりもいやしく素早く反応する。 頭から遠く離れた部分を包む他人の口内の粘膜が、さっきの自分のとそいつのより熱い。 ああ、だめだ。やべぇ。 さんざこき下ろしたこの行為に、体表を覆う点という点が呼び覚まされる。 あの縦断の破裂感を求めるのが本能ならば、内外構わず破壊を求めるのもまた本能なんじゃねーのか。生きたがったり、その場その場でころころ目的を変えやがる。 顔面を覆う腕の下で、俺がそんな事を考えてるとも知らず、俺のを離した銀時の体が次に触れた部位は半開きになった口だった。内側をパンパンにした粘膜の塊で。どうやら胸の上に跨り覆いかぶさって口に挿そうとしてるらしい。 性器を、ましてや男のもんを、口に含んで啜るのに抵抗が無いと言えばそれは自欺になるが、理由はそれでは無く。が、かと言って他に適当な物も無いけど。両腕を乗せた頭を起こすのが億劫。 亀頭が口唇の隙間をちょんちょんとせっつく。 「なめて」 まだ息の散り散りになっていない声は上擦る事も無く冷静で平坦で、呼吸を置いて無反応なのを見てとって伸ばしてきた指も静かに腕の隙間を縫って割り込み、額を撫で上げるのと腕を追い退けるのは元々一対の動作だったみたいに滑らかに並んで行われた。頭頂を通過した指先は頭をすくい上げ僅かに浮かす。 密閉と圧力を解かれた瞼には、銀時の背から差す拡散した光でさえ強い。 「なんつー顔してんだ」 銀時の性器が吊り糸で引かれたみたいにピクンと跳ねた。 返ってきたそれは下唇に落ちた反動で小さくバウンドし、尿道口を追って伸び上がる粘着質な体液の糸が、視界の底で短くねっとりと伸縮の軌道を描く。 下唇の中央部に付着した先走りを掬い取ろうと伸ばした舌を、そのまま舌先についた頭に回して上唇を被せた。 口内に入った部分を舐めると、味というより質感が舌に広がる。先っぽの窪みに溜まった粘液を舌先でこそげると、それはまだ管から分泌してき、広がって口蓋に纏わりつく。やはり味覚にくる物より絡んでくる粘質の方が、口腔内を量感として占めている。 この体勢から唾液を要領よく飲み込むのは難しくて、ずるずると下司張った音が喉から脳に直接響く。 銀時も声を漏らす。声と息の中間ぐらいの低い喘ぎ。思いっきり煽りから見る表情は間抜けだ。多分向こうから見えてる俺の顔も随分間抜けだろう。 しばらく薄目を開けて、つか、薄目が限界だ。こっちを見る銀時を見てたら、腕が伸びてきて、銀時の腰の引きと合わせて頭を持ち上げられる。吸っていた物は一回口からすぽんと抜けた。もう一回咥えついたら上下が逆になっていて、今度は俺が銀時に被さる体制になっていた。 仰向けから上体だけ起こしてる銀時は、はあはあと目立つ息を吐きながら眉間に皺を寄せている。 肩を小突かれたのに気付いて視線を流すと、指が後ろの足を指す。同時に開いた足で挟んでいた銀時の膝が内腿を斜め前に押す。 ああ。回れと。 あまり楽しい格好じゃない。だがさっきから正常な判断っていうのがもうどうでもよくなっていて、手招きのまま、銀時の体の中心を軸に下半身を前方に滑らせる。俺の体と銀時の胴と、垂直になったあたりでさっき肩を叩いた指は腿を掴み、持ち上げて肩の上あたりを跨がせる。 さすがに恥ずかしい。舌を這わされてビクつく振動を直に伝えてしまうのと、少し離されて目に映るのと、どっちがって聞かれればどっちもだ。けど、前者の方がそんな事考えてる思考を邪魔してくる分、こっちも冷静さが乱れる分、マシかもしれない。 ああ、でも音を立てるのはやめてくれ。さっき自分の喉でしてたのと同じくらい下卑た音が今度は後部から。その音の立つ中心の部分に、多分中三本のうちのどれかが突き立つ。さっきは入り口を少しこじる程度だったのが今度は指の根元が肉につくまで深々と。差し込まれてその指の太さに広がってる部分に口を付け唾液を垂らす。人肌程度の温度は有していると思われるのに、そこに広がる唾液はひんやりと涼しく感じる。が、すぐに追加される指の摩擦がもたらす熱で、垂らされる前よりそこの体感温度は熱くなる。 息と、体に篭る振動を声で吐き出すのでいっぱいで、銀時のを咥えてる首なんて動かない。根元を握ってる手にまで震えが走って、それが咥えてるものを通して自分の体内にまで伝ってくる。むせて咳が出た。そしたら咳の反動で頭が揺れたのでぐっと入ってきて喉の奥をつき、えずきそうになった。我ながら…アホかと思う。その様子を見てか銀時の動きが一瞬止まったが、またすぐに再開。遅れて俺の体の波打ちも再開。三本に慣れた頃合を見計らって、指が抜かれ、門渡りを削るように甘噛んでいた歯も離れる。銀時は頭上の腰をどけて起き上がり、崩れた胡坐の間に俺を抱き上げて乗せた。 性器がケツの入り口に宛がわれ、ゆっくりとだが確実に、堅固とした圧迫感をもって、壁を押し広げ内側へ内側へとせり上ってくる。 こいつのどこにそんな技巧があったんだっておかしくなるくらいにゆっくりと。 だが確実に押し入ってこられる感覚は、詰まった内臓を無理矢理こじ開けられるみたいな。そこで感じる性器はさっき口に含んでいたそれより硬い。無機物みたいに硬い。体の方が、異物を押し出そうとしているのがわかる。きつい。もう一回挿れられて果てた後とは言え。つい今も指で慣らされたばかりだが、受け入れている場所が直に感じている質量は束になっただけの指とは全く違う。下半身で起こってる侵攻に抵抗でぎつぎつと音を立ててるのはその部分だけじゃなくて、脳まで一直線上にある全部の器官がその余波でビリビリひりつく。 やがて全部入りきってもまだ、深部に進もうとするのを止めず、上体を起こして俺の背に腕を回し、人の体を自分の骨盤の中に沈めようとでもしてるのかってくらい強い力で肩を押さえつける。もう入らねーよ。肺まで押し上げられてるみたいで、息が詰まる。なのに根元周りの陰毛を圧縮しそうなほどケツの奥にがっちりと差し込まれたそれは、そのまま一寸たりとも動かない。 本意である無しより先に、じれったさに苛立つ。 なんのつもりだ?つまらねー小細工しやがって。 過敏になった俺の容れ物は、いっそ嘲ってやりたいくらいにいじましく滾り煮え立ち渇望する。空気に触れている部分だけじゃ飽き足らず、性感帯の狭いその部分以外は愚鈍なはずの穴やら、何かと感情が昂ぶればそれを蒐集して疼く鳩尾やら、とにかく全部で。 全身をビリビリと走る快楽に奮わされて天井を仰ぎっぱなしだった頭は、それより更に高みへの激しい期待感にバネみたいに撓って正しく眼前の銀髪を見下ろし、銀時の細い癖毛を掴み仰のけた顔を睨みつけた。 やんならやるでいいけどよ、だったらさっさと仕舞いにしろやと、勢い込んで罵声を浴びせる気でもって銀時の目を見たら、火照って危うく液状になりかけてた頭がキンと冷えて、隣家の戸がガラガラと音を立てて動くのが聞こえた。 それに続いてしとしとと囀るような雨。屋根を弾く音。湿った舗装道とタイヤの摩擦音。 戯ればみ上手なふりが、下手な野郎だなぁ。 動かない口とは逆に、目元と、銀時が入ってるとこの壁が、音は立てないが、きゅうっとしまるのがよくわかった。 また頭が融けそうになる。 愛しい。これがどういう種類なのか、性愛ってもんなのか情愛ってもんなのか、それらともまた違うものなのか、区別はつかないけれどただただ無償にそう感じる。言葉としてその分類になる事だけは何故か明確に理解でき、奥から、底の底から込み上げてくる。自分の中に生えているものなのに止めようにも掴み所もなく、それに伴って自分の所在まで足場を無くしたみたいに不安定な物に感じて、銀時の首の後ろで腕を交差させ両肩を掴んだ。密着させた全身で銀時を体ごと掴んだ。俺の肩にあった銀時の掌は背を滑り、肩甲骨の中ほどで交差して脇を少し下ったあたりで止まった。空気に丸晒ししてる背。銀時の肌の通った道があったかい。 規則的に打つ脈動が肉と骨を挟んだ俺の心臓も打つ。 平常よりこんなにも逸っているくせに。この早さで血を送って海綿体もパンパンに充血させているくせに。さっさとこすって出しゃいいんだ。 銀時を掴む手に力を込める。銀時の吐く息が耳に掛かる。熱い。 羽交い絞めにして壊しても足りないんじゃないかと思った後に、何を満たしたいのかをわかってないって事に気付いた。 さっきまで悦楽に波打ってた鳩尾が今度はこれを集めてきて、抑えきれずに気管に食道に上がってくるもんだから、乾いて喉に唾液がねばつく。 胸部を締め上げる銀時の腕の力は、肺にも到達していてそういえばとうに息も苦しい。けどもっと強くもっと隙間無くと、全身あらん限りの力を込め銀時に強請る。応じられ肋骨は更に強く軋んだから、俺も銀時の首を骨が折れそうなほど強く抱きしめた。強く強く強く強く。互いに。競い合うように。 やべぇ。だめだ。止まらねぇ。震える。 認めてしまえば、今までにない昂りで、安らぎだ。 俺の音も振動も、肌を通り抜けて銀時の心臓に伝っているのだろうか。 このまま混ざり合って一つになれたらなって、今まで何人の馬鹿が同じ事考えたのだろうか。 雨足の弱まる気配は無い。 或いはこのまま止まなくても…たった数時間経た後にはそう思った事も忘れて雨戸の向こうを歩いているだろう。 今度こそ、この意識を持って。最初で最後のサヨウナラだ。 ただどうしようもなく自分に打ち込まれたままじっとしてる銀時の血の通う楔を、銀時を、自分に叩き付けたくなって俺は自ら腰を振った。 そのままぐらついて倒れこんでもつれてぐちゃぐちゃに吸い付き絡め合わせ鼻梁を噛み首の裏を噛まれ腰を打ちつけ殴り合い血振るって涎を垂らし喰らいつき果てるまで飛んだ。 時間は、回転灯のようにめまぐるしく早く、タールの底に沈殿した澱のように低く流れて。 エロスでタナトスがラブまで装備して、ステータス上がるどころか残りHP1になってしまった高杉。 辞書見たら「愛しい」で「いとしい」「かなしい」「うつくしい」って読み方があるらしく。 意味は別ですが、好きな読みで読んでいただけたらなと思います。 |