-nuclear pile- 凍てつきが肌を刺す静かな闇の中だった。 さっき小さく打ち上がったばかりの光の粒も、散り散りになってこの闇の中にとけた。 人の今際の熱量の噴射。これが見たいが為に人を斬っている。だがもともと弱い光が爆ぜただけの火花はすぐに真っ暗な無に吸収される。 もう残っていない。 こんな冷える日の息は白かった。 消えた光があった場所にその白を浮かべてみようと思うが、闇に慣れすぎた俺の頭にはそれをうまく繋ぎとめておく事が出来ない。 冬の花火の後は一際虚しいねェ。 目をやってから初めて気付いた事だ。 どんなに弱くとも、この常に一辺倒な世界に射し込む物は、俺の五感がちゃあんと揃ったような錯覚をくれる。 その後は。 ただただ寒い。 火に少しでもあたった後の寒気は堪える。 無い物ねだった代償か。 あの小さな光も消えてしまった。その事に寂しさを感じ、闇は最前よりも重くなる。 このままじゃ俺自身もこの中にとけて消えちまうかもしれないねェ。 その時が来たら来たでそれで仕舞い。 人の命なんてそんなもの。光零れるといってもせいぜいあの程度。俺の程度も俺には関係無い事だ。 外も内も寒い。 いつまでも惨めに名残を惜しんでたところで風邪をひく。 今日もまた消えようとしている。 刀を収めるのを後にして、今咲いた花の淵が萎むように侵されてゆくのを眺めていたら、闇の両端が仄かに明るくなった。 そして声が聞こえた。 振り返る。 フラッシュが360度を制す。 識別出来ない色で世界を埋めたかと思えばそれは眼前に渦を巻いて人型を包んでいた。 落としそうになった刀を握る指に加減もわからず力を入れながら、ごうごうと揺れる炎の向こうから聞こえる声に耳を奪われる。 視界?この俺に視界なんてものあったか?と自嘲したのはしばらくして最初の酔いも引けた後だった。 それが酔いだったと気付いたのもその時だった。 俺はどうやらこの炎を持つ男の鬣の靡きに平衡感覚を乱されている。 このように生まれながらに強い光を放つ者というのは存在するのだが、眼球に映る世界をなくしてそれに気付いてからも擦れ違う事さえ稀だ。 それ以前にはそんな者も居たのかもしれないが、その時は見えなかった。 鬣と例えたそれは炎の手足で、この炎というのもこの男が居る場所から噴き出している光の形状を、俺が最も近いと感じた物に例えた。 炎の周りに人が集まった。 俺と同じような認識を持っているかはわからないが、何かを感じているのも中には居るだろう。 炎はその外の闇を色濃い物にするらしい。何も無い闇に濃度の存在など考えた事もなかった。 初めて知るその密度に慄くほどの恐怖を感じたが、やがてその絶対性も、この炎のそばへ寄ればよるほど薄まり、遠くに疫病を聞いた時みたく保身の約束に安らぐ事が出来ると知り、もっと炎の近くに寄りたいと思った。 その放つ光の中心に近付くほど端に入る闇の面積も狭まる。恐怖はますます遠い物となった。 そして同時にこれが業火だった事を知る。 空に在る業火。 黒を炙り蠢く猛炎の内に時折覗く、より光の強い内焔はどこか哀しげな青を湛え、さらに強く発光する真芯の部分は捕らえきれない白だった。 この時折覗く青の青さを見逃すのが嫌で、気付けば俺は食い入るように眼孔に力を入れ、あの男をみるようになっていた。 やがてたった一人を除いて、人の声というものが俺の耳にはしなくなった。 人では無い。屋敷の外を賑わすものも中で音をたてるもの達も俺も。人は一人だけだ。 彼が結成した義勇軍に俺も参列した。 俺のやっている事は以前と変わらない。人を斬る。 その目的のてっぺんが変わっただけ。 こう見えても人斬りの異名も持っている。そこらの金持ちの用心棒を買って出るのにも遜色無い腕だ。 金持ちに使われるんじゃない。あの人に使われている。 ついでに自分のすでに色褪せかけた楽しみにも耽るが、あの人は何も言わない。 その先であの人と似た匂いを持つ侍と偶然にも出会う事になった。 報告のついでに告げるとふん、と相槌とも切り上げとも取れる、曖昧な息を漏らしてきた。 用心棒としての役目を欠いた事を咎めもしなかったし、侍についてもその短い一息以上の興味を示さなかった。 話はそこで終わった。 あの人が眼前にある時の色濃い陰影の暗の部分は、俺がもともと持つ闇で、そこにあの人の炎が燃え立ち照らしているんだと思っていたが、最早あの人の前では、無限の広がりを持っていた俺の黒い視界などは存在しなくなっているのではないかと、ふとそんな気もした。 やがて、組織の中の者、参謀を名乗る腰抜けの立てた計画が現実味を帯びる事になり、それまでばらばらに行動していた隊の者たちは、集って先頃俺が伺った江戸の地にのぼる事になった。 俺らが用心棒だなんだと血生臭い事をして資金を集めるのと別方面で進めていた、ある特殊な刀の話がついたらしい。 この頃には俺も確信を持って気付いていた。例の侍が、何やら炎の持つ過去と、関係があるのではないかと。 耳に挟む噂や彼の経歴と照らし、それは十二分に考えられる。その侍の存在が何故か気に掛かり続けるのを自分でも不思議だと思っていたが、こう仮説を立てると、その理由がわかったような気がした。そうしてまだひっかかるのはあの時の、あの曖昧な態度だった。例え一秒でも無関心以外の状態が、体で感じられる空気の中に混ざっていた事だった。 その刀の試験体に、俺は手を挙げた。 躁狂の中の本質は悲哀による零度以下の摂氏で、反目するようにそれを包む炎は熱く、交互に俺を焦がす。 熱いのか、冷たいのか、わからない。 が。この世で形を成す為の実体が感じる事など、今の俺にはどうでもいい。 名前を入手した。 あの侍だ。 夜叉など、ふざけた話だ。 憎しみがあろありと湧き上がってくる。とうに腑の抜けた存在が、あの人の名と共に人の口にのぼるなど。 その存在が例え一瞬でもあの人の精神に隙間を作るなど。 この人はいつでも銃口に生身を晒しているんだ我々には見えない。たとえこの目が開いていたとしても俺には見えない。 淵に常に立っている。 この人の戦ってる場所が遠すぎて俺達では盾になる事も叶わない。 この身を捧げる事ただそれだけを望む。身が果てる事など厭わない。 望みを叶えてください。俺のエゴを。あんたの傍に居たいというエゴを。 なんだこの男は。 神よ叶えてくださいただ俺は傍に居たいんだ俺の五体に残ったものなんて俺を万能に近く導く事によってこれは俺の物だあの人を守るそうだ俺の命ごとくれてやってもいい!力あの人のあの悲しみをただ俺は離れたくないん守る力底にある色の中に含まれた異物を薙ぎ払ってより深くそらの底を離れない青を一色で澄みつくした神よ聞こえているのか青をそこから俺にだって踏みにじる力があれば不要な物など入れないくらいに貴方をくじいてくじいて俺は神にも仏にも祈らないくじいて万物になる貴方にそれを晴らす愚鈍な輩が物の価値もわからない救い出すなんてふざけたまねをするつもりなら殺めぬいて光であってくれ誰かに照らされるなどあってはならない全ては同化したい貴方の中に入りたいそれが出来ないのなら貴方の中にあるもの貴方の中でいつまでも鬱陶しいあいつらを俺はついでに抹消し俺だけを照らしてください何故お前らが出て行けこの人にはお前達など必要ない消えるなんて許さない消すなら俺寧ろ邪魔だこの強い光が鈍ってしまう貴様らのせいであくぇryh時具負 …………… ………‥ …グエ・ …俺の炎は哀しみが似合うんだ さぁおれを狂わせてください燃やしてくださいはyくきbんslんsl@んsjうぇいvfじぇvふぇpbgwkp |