翌日、ヅラから小包が届く。

「またロクでもねーもんじゃねぇだろうなぁ…。」

慎重に梱包された中身を開けると、それは丸薬だった。
高杉の調子の悪くなりそうな時、興奮した時に飲ませろと手紙に書いてある。
精神安定剤というやつか。
ふざけやがって。

だいたいなぁ。
こいつの調子がおかしいのは今に始まったことじゃねえの。
無茶苦茶しやがるのが高杉!

こいつのタガぁなあ、とっくにはずれちまってんだよ…。

それをこんな丸薬ひとつで…。

「銀時ィ」

振り返ると奴が居た。
つい先程まで寝ていたがったと思えば、極彩色のような内掛け・着物・帯。煙管からの煙をくゆらせ、何故かその筒はこちらを向いている。

「なんだそれァ?ヅラからか?」

気取られないよう梱包の中の丸薬の袋をたもとに仕舞い込む。

「ああ、そうだ。俺宛だ。」

「ははっ!隠したなテメェ…ククク…見せろよ。」

足の裏が、飛んできた。

 ―ってぇ…何しやがる!
続いて頚動脈目掛けて喉輪に開かれた掌が襲ってくる。上体をのけぞり高杉の手首を掴む。ドギツイ色の女物から白い脚が伸びる。俺は奴を羽交い絞めにしようと手首から内掛けを辿る。辿る。辿る…やっと襟首のその瞬間。
脇腹に高杉の肘がまともに入った。

「ぐっ…」

思わず膝を突き腕を這い蹲らせた。
コロコロコロと微かな音がして巾着上の袋より小さかったのであろう丸薬が四粒六粒と床に転がり落ちた。

「ひでえなあ銀時、俺に毒盛ろうってえのか?」

ケラケラ笑いながら這い蹲る俺を見据えたかと思うと、高杉は膝を折り、その小さな丸い粒を飴細工でも触るかのようなたおやかな手つきで、一粒一粒拾い出した。床にこぼれた全てを拾い上げ、掌に手をかざし愛でるように丸薬に微笑みかける。
かと思えば足はすぅと炊事場の方に伸びてゆく。
半分ほどの水で満たされた水差しをとり、掌を口に宛がう。
ゴクリと嚥下の音が聞こえると同時に高杉の両手首を抑えた。

「おいっ!テメェ馬鹿野郎!!」
「吐けっ!」

「まったくひでえ野郎だぜェ?てめぇだけはよぅ」

力一杯掴んでいるはずの左手から水差しが放物線を描いて被空し、すぐさまガシャリと大きな音を立てた。
それを合図とは言わないが、高杉の膝が俺の下腹部に命中する。
前のめった後頭部をめった打ちにされる。脳が揺れてあやうく足をとられそうになったが、どうにか踏ん張り、高杉の肝臓を打抜く。
高杉は目を剥いて笑っている。



そんな攻防が続いた中、高杉の動きが徐々に緩慢としはじめた。
珍しく息を上げ、さっき作ったであろう布山のたもとで寝息を立て始めた。

―容量以上だったってことか?

さっき切れたくちびるの端がちりちりと痛む。

殴ったり殴られたり、もう疲れた。


とにかくもう、疲れた。





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