幸いな事にいろんなタイプの浄、不浄が混在するこの町。
有名になりすぎちまったこいつを隠すぐらい、このかぶき町にはわけでも無い。
こいつがこうやって毎日大人しくさえしていれば、世間の目を欺くぐらい神経を削らなくてもおいそれと出来てしまう。


階下で働くキャサリンが、気狂いはさっさと病院に連れていけと唾を吐きかけてくる。
高杉がテーブルだのテレビだの壁だの床だのに本気のファイトを演じさせた後は、決まって俺の襟首を掴んで文字通り鬼の首をとったが如くの勢いで喚き立ててくる。
思えばあいつは居候が変わる事を耳に入れた時も、訝しげに眉間に皺を寄せていた。
隠しておくのも気が引けると思ってばあさんには追って詳細を話しておいたんだが、何処かで聞き耳を立てていたようだ。チャンスを窺っていびり出してやろうとヒステリックな態度を隠さなくなった。
奴にしたら高杉は、派手なかっこも相まってどこの馬の骨とも知れない。しかも江戸を火の海にしようなんて大それた事は企てるわ、犯罪専科みてーな海賊とはつるむわ。悪人も悪人。
そんな奴を上に住まわせて、ばあさんにもしもの事があったらどうするんだとかそういった心配もあるのだろう。


気持ちはわかる。が。落ち着け。


お前の望む通り、こいつを脳病院にしょっぴき出す。
精神科医どもが軒を並べて高杉の初診に身を乗り出したとしよう。そこに居合わせたのが運良く上機嫌で饒舌な高杉だったとしよう。
その二つを足して高杉という人間を掘り下げた結論が、古くからこいつを見てきた俺の答えより正解なんて事は有り得るか?
よりも糞もねーとかそんな話じゃないんだ。
人間なんて、一日一朝で窺い知った気持ちになれるもんじゃねーって事をテメェらがどこまで理解した上でのそれなのかと。
俺の言わんとするところはそこだ。わかるか?
とくにこいつみたいな人間に関してはだ。
それ以前に高杉は別に狂ってるわけではない。
やる事はおかしいが人間長く生きてりゃ、そういう日も来るんだよ。それを知ったら世間の物差しなんて大して正確じゃないって事もおのずとわかってくるもんだ。少々おかしな事をしたって大した話じゃない。うちん中でせいぜい俺に迷惑掛けてる程度で納まってりゃ。


高杉当番にもれなく着いてくるしちめんどくさいあれこれ。
こいつを預かる事が決定した時点で、それは覚悟しろよと通告されていたようなもんだ。
なんで俺に決まったんだろう。
辰馬は宇宙。奴は乗り気だったが、いくらなんでもそこまで急に環境を変えるのはどうかとヅラが難色を示した。
ヅラはヅラでやってる事がやってる事だから下手に着火する事になりかねねーと。


…で、俺?
俺が晋ちゃんもらっちゃう破目か。



イヤイヤイヤ。だからって今更甘い生活とか展開するわけでもあるまいし、俺になんの利点があるっつーんだ?
イヤイヤイヤ。もういい。もう飽きた。何万回考えたって何割り食ってんのォ?俺。って話にしかなんねーよ。



結果万事屋は当面の間、開店休業状態を余儀無くされ、家賃その他は辰馬がどんと置いていった高杉基金によって賄われた。
どうやら逃亡を企てる気配は無いようだと見て取るようになってから、お互いの息抜きの為、半日前後で終わり一人でも片付けられるような仕事は請け始めた。正直、大の男が友達の財布で生活してるってどうよ?とちょっと情けなさも感じはしたが、奴の家内制テロルが始まって酷い時には修繕費で基金もごっそり擦り減らされるような事が現状になってくると、そんな事は気にしてられなくなった。
そんな青雲の志みたいな飯の種にもならねーようなモンはさっさと翻し、アホみたいな恥や外聞なんかぐっちゃぐちゃに丸めて捨てて、てめー宇宙船壊されるより安いよな!とすぐに無心の電話を掛けた。
坊主だってお布施で生きてんだ!俺は黒羽二重は持ってても貯金なんざねーんだよ!


やっぱこいつもさ、イライラすると思うわけよ。
最初のうちは大人しいのが、諦めなんだか狸寝入りなんだかわからず、いちご牛乳買いに行く事も出来なかったけど、なんつーかまぁちょっと経って今見ると、見張られてるのが鬱陶しいだけで、俺をどうこうしてまで逃げようって気は無いらしい。
いや、自分の迂闊が祟って逃げられるだけならまだいいんだよ?その先でまた前みたいに世間様相手に暴れだされちゃ元も子もねーし、適度に自分がこいつを見張ってるんだって事は意識してる。
めんどくさいが背に腹は変えられねー。あれ?何が背で何が腹だ?


と、まぁ高杉との生活も落ち着きを見せ、攻略…と言ってもその多くは回避だが、それも掴めてきたところ。最近。
最初玄関開けて部屋がちょっと霞んでた日は犯してやろうかこのミニデーモンめと犯行に手を染めかかったが、ザラキ唱えられたら困るからな。
前頭葉も下半身もぐっと我慢で乗り切った。


少々思い込みの激しいところと、そうなったら引っ込める事を知らないような厄介な性分をしているが、それより困るのはその性分で問題起こされても憎みきれないところなんだよな。


はぁ。それにしても。
俺オナニーすらしてないんですけど。
こいつどうなのよ?俺の見てないところでしてるの?


こんな生活が続いたら、俺セックスのやり方忘れちまうんじゃねーかな。
土方とつるもうにも僕爆弾抱えてますしね。
やらしてくれよとヅラんちの敷居なんざ跨ごうもんなら…もうね。六道輪廻とか食らいそうだしね。
そのへんのギャルを颯爽とナンパ。まじで颯爽と早い話でまとまればいいんだけどな。時間掛かったら面倒だ。しかも俺門限みたいなのあるから昼間っから気風のいい天女様でも降臨してくれねーと無理だ。
晋ちゃんの緑の羽根募金で風俗行くのもな…。
神楽が居た時でもこんな下の苦労はしてねーぞ。思えばあいつぁー良く出来たガキだった。
はぁ〜あ。こいつがやらしてくれりゃー問題無いんだけどな。


つ・か。
今気付いたけど、俺よく我慢出来たな。
着物はしょっちゅうあられもない事になってるわ、鎖骨の辺りなんかとくにはしたないわ、なんかとにかくエロいわ、帯がケツに乗っかってて可愛いんだか破廉恥なんだか分別つけ兼ねるわ。
かつて俺の全身全霊心血奪って発情させてた淫獣がたまに無防備に一つ屋根の下惰眠を貪り喰らってるというのによ。
うん、誇張した。そこまで俺も危険思想じゃないからね。でもちょっと薄めたら俺の言いたい事にはなるからね。
なんつーか。先走りと同じダッシュを蹴れないって事は。俺も年なのかな。寄る年波には勝てねーのかな!


あ、帯の件は本人には内緒な。うん、内緒。あのケツにちょこんと乗ってる帯、つかおリボン、多分本人無自覚だから。ププ。
前々から思ってたんだよ、奴があの傾向に衣替えした頃から。乗せてやがるよちょっこーんと。
何あれケツ強調してんの?それとも何か?傾き者アッピールか?かぶいてるっつーかいざなってるよあれ。
あんなんで外も歩いてたりしたわけだけど、大丈夫だったの?アイツ。わかっててやってんの?無自覚?ほんとに無自覚?


無自覚で挑発すんなよコノヤロー。ほんととんだ危険人物だよ全くもう。


傾向には対策が必要です。
あーもう煮詰まってんな畜生。





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